2008年10月13日

ノーベル賞 今日の1曲 <29> 井上陽水  (+ スティーヴィー・ワンダーStevie Wonder、 ベック、ボガート&アピスBeck, Bogert & Appice)

29 井上陽水 / 氷の世界 (作詞作曲 井上陽水/編曲 星勝・ニック・ハリソン)  1973年

  株価8000円とか暗い世相ですが、ノーベル賞受賞のニュースは明るい話題でした。

ところが、日本人3人が独占受賞した今年のノーベル物理学賞に対し、イタリア国内で疑問の声が起こっているらしい。10月8日付のイタリア主要各紙は、「ノーベル賞、引ったくり」「カビボ氏への賞をはく奪、彼が称賛されるにふさわしい」と今回の受賞をヒステリックに1面で報じたそうです。
 
  今回受賞の対象となった「小林・益川理論」が発表されたのが1973年。しかし、その10年前の1963年に、イタリア人物理学者のニコラ・カビボ・ローマ大教授は同理論の基礎となる考えを提唱し、物理学会では「カビボ・小林・益川理論」と3人の名を同時に冠して呼ばれることもあるとのこと。

  ノーベル賞の決定には重大な審査があるのでしょうから、門外漢の私には何ともいえませんが、ブログにもLE ORMEというイタリア語を使用し、イタリア音楽大好きの私としては、イタリア人が日本を悪く言っているのは淋しい限り。スウェーデンの人たちも気を利かせてカビボさんにも賞をあげてくれれば、4人揃ってニッコリ円満、日伊友好の益々の進展となったのになあと思うのです。


− 日本初のミリオンセラー LP「氷の世界」−

  さて、今回の井上陽水の「氷の世界」は、日本初のミリオンセラーを記録した同名LPのタイトル曲。同LP は1974年〜1975年度に2年連続してオリコン年間LPチャート第1位を記録。当時のミリオンセラーを1995年の音楽市場規模に換算すると800万枚〜1000万枚に相当するというメガヒット。

  国内アルバム売り上げ史上歴代1位(850万枚)の宇多田ヒカルの1stCD「First Love」以上のインパクトがあったのです。

昔、バイト仲間と「氷の世界」の話題になったとき、「でも、あのLPの中で、いい曲って『氷の世界』と『心もよう』だけなんだよねえ〜」と言われ、僕も同感みたいな話をしたことがある。
しかし、その2曲で十分。特に、LPでしか聴けなかった『氷の世界』を聴くだけでこのLPを買う価値はあったと思う。それぐらいこの曲はインパクトがあったのだ。


−「氷の世界」そのサウンドの魅力 −

  この曲の魅力はなんと言っても、井上陽水がフォーク・シンガーでありながら、アレンジャーがバリバリにロックの星勝であること。  
  星勝は、1970年代前半の日本のロック界で、相撲に例えれば、東の横綱フラワー・トラベリン・バンドFlower Travellin' Bandと並ぶ西の横綱モップスMOPSのギタリストだった人です。(村八分という重要なバンドもありましたが、正統派の相撲とは土俵が違うところで別格の存在だと思います。)
  若い方にはなんだかピンと来ないかもしれませんが、今のミスチルやグレイとはおもむきが違って、昔のロックは反体制的であったり相撲のように重いものだったのです。

星勝のアレンジによる「氷の世界」の冒頭を印象づけるエレクトリックピアノによるリフは、日本のロックの歴史上一番かっこいいリフのひとつだと思う。

  かつてディープ・パープルDeep Purple(世界最高のハード・ロックバンドのひとつだが、中心メンバーがクラシック、特にバッハに傾倒していたため、クラシカル・プログレッシブ・ロック−10月12日参照−の最高峰のひとつともいえる)のベーシスト、ロジャー・グローバーは、インタビューでこう語った。
  「楽器のテクニックも重要だが、音楽で一番難しいことは、スモーク・オン・ザ・ウォーターSmoke on the Waterのような単純だが印象に残るリフを作曲することだ。」
 
   いつまでも印象に残るかっこいいリフというのは、ビートルズやローリング・ストーンズクラスを除けば、一流と言われるバンドでも生涯で2個とか3個作れれば大成功といえるだろう。日本のロックの歴史で印象に残るほどのリフは、果たしていくつあっただろうか。

当時としては珍しく、ロンドンにまで赴いてレコーディングされた本作が、当時の世界の最先端のサウンドを追求していたことは明らかだ。

  星勝が、「氷の世界」のリフのインスピレーションを得たのは、前年のスティーヴィー・ワンダーStevie Wonderの1972年の全米No1ヒット曲、迷信Superstitionのリフからだと想像している。日本でも当時大ヒットした。氷の世界のあの硬質のエレクトリックピアノの音は「迷信」とそっくりだ。「氷の世界」は、ロックというよりも私の中では黒人ファンクに近い。

  スティーヴィー・ワンダーStevie Wonder / 迷信Superstition
http://jp.youtube.com/watch?v=2OJsYwLs7yE&feature=related レイ・チャールズと並ぶ盲目の黒人天才シンガー。名曲をたくさん生んだ人。一瞬聴いただけで彼独自の世界に連れていかれる。名作「トーキングブック」から。



迷信Superstitionのリフからインスピレーションを得たのは星勝だけではない。ロックの3大ギタリストの一人と言われるジェフ・ベックJeff Beckは、ベック、ボガート&アピスBeck, Bogert & Appiceを結成し、「迷信」そのものをロックにアレンジしている。
私が小学生のとき、ビートルズ、ローリング・ストーンズ以外で初めて買ったロックのLPが2枚組LP「Beck, Bogert & Appice / Live」だった。当時の私には「買って損した」としか思えなかったが、その中で唯一かっこいいと思った曲が「迷信」だった。

  Beck, Bogert & Appice – Superstition 
白人ロッカーによる黒人ソウルの解釈の最高の一例。
http://jp.youtube.com/watch?v=aBpSeyk1z4o 
当時ロック界では世界最強とも言われたTim Bogertのべース、Carmine Appiceのドラムスのリズム隊のグルーブ感にビシビシッと酔える。




 話がそれましたが、実にかっこいい「氷の世界」のサウンド。ホーンセクションにハーモニカ、黒人ファンクとフォークの融合した、まさにイエロー・ファンク。


−「氷の世界」その歌詞の深淵 −

 しかし、「氷の世界」の奇蹟の長期ミリオンセラーを生んだ要因は、そのサウンドではなく、歌詞だ。

  冒頭のリフの繰り返しによる魔力で聞き手に「何がくるのか?」と思わせたところに、いきなり1番の歌詞では「窓の外ではリンゴ売り…」というシュールで意味不明の歌詞で聞き手に疑問符「…?」を投げかける。そして歌詞の2番、3番と進むにつれて徐々に人間の深層心理の核心に迫っていく手法は、かまやつひろしの名曲「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」にも似ている。

 以前どこかの大学教授が、テレビで「この(学者の)世界ではすごい業績を上げる人ってみんなどこか暗い影がある人なんですよね」と言っていた。学者の世界では、常に新しい学説を提起しなければ、オリジナリティーのない陳腐な学者とみなされて冷笑されるらしい。やっと長年の研究の成果として新しい学説を発表しても、学会で認められるまでは、異説、少数説としてさらに何十年も冷遇されることもある。あの世界の野口英世でさえ、学歴のために日本の学会では認められなかったのだ。

  最後に学者への殺し文句「ノーベル賞」まで飛び出す「氷の世界」は、そんな先の見えない鬱屈した研究者の感情をも代弁し、当時40歳を超えていた学者がこれを聴いて狂喜していた。当時は私の周りでも「えっこんな人が」という大人が「氷の世界」を絶賛していたのを思い出す。

こうして「氷の世界」は、「よしだたくろう」や「かぐや姫」が若者だけの代弁者だったのとは異なり、思いもかけない層にまで広く深く浸透し、日本初のミリオンセラーを記録したのでした。
 
それにしてもこの曲で一度踊ってみたい。どこかのクラブでこんなのかける若いDJあらわれないかなあ。

井上陽水 / 氷の世界
http://jp.youtube.com/watch?v=HOOMO1jwTO4 
ファンキーなイントロに心が躍る。1番の詞はシュールな世界、外は吹雪らしい。 1:05 いよいよ2番から歌詞が自己の内面の世界へ突入。歌を強調するために、リフのミキシングバランスが下げられ、サウンドのテンションが落ちてちょっと残念。1:45 井上陽水の出自がフォークであることを示すハーモニカが核心の3番に向けて効果的。 2:09 問題の3番。他人に向かう攻撃の力を自分に向ける優しさが共感を呼ぶ。同世代のバンド村八分のチャー坊の歌詞にも通じるものがある。「氷の世界」では、その攻撃の力をプラスの力に変えているが、チャー坊の場合はマイナスの力のまま自分を滅ぼしてしまった。



この記事へのコメント
ふらふらっと立ち寄ってみました。
足跡がてらにコメント残して帰りますね。
僕のブログは情けないブログなんであまり読まないほうがいいかと・・・
また除きにきますね。
Posted by 銀次 at 2008年10月15日 00:53
ご訪問ありがとうございます。また、お暇なときにでもお寄りください。
Posted by カンカン at 2008年10月15日 11:22
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